Withコロナ時代の健康づくり:第2回「歯と口の健康」

歯と口の健康週間

6月4日〜10日は歯と口の健康週間です。今年は「一生を 共に歩む 自分の歯」の標語のもと、生きる力を支える歯科口腔保健の推進を重点目標として歯科医師会を中心に地域や学校等での啓発活動が行われています。一方、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う歯と口の健康問題が指摘されつつあります。この機会に歯と口の健康に意識を向け、虫歯や歯周病はもちろん、新型コロナウイルスにも負けない体を手に入れましょう。  

コロナ禍で虫歯が増加?!

大府市が2020年4月から9月までに実施した3歳児健診では、虫歯の罹患率が2019年度1年間と比較して1.9倍に増えていたことがわかりました。大府市プレスリリース

新型コロナウイルスの流行から約1年半、まだ統計資料としてまとまったものは見当たりませんが、この他にも各地の歯科医院、学校保健の現場から子どもの虫歯が増えているという声を聞きます。一斉休校をはじめ自粛生活での生活習慣の乱れや間食の増加に加え、感染リスクを減らすために集団生活の場での水飲み場利用や歯磨きを見合わせていること、マスク着用で口呼吸になりやすいことなど、様々な要因が重なって虫歯になりやすい状況になっていると考えられます。

大人も同様で、在宅勤務等生活スタイルの変化に伴い、食生活の乱れ、歯磨き回数の減少といった歯と口の健康にとって望ましくない行動が増える一方、歯科受診を控えることが原因で虫歯や歯周病の発生・悪化を招いているようです。

ある医療法人社団が現在歯科医院に通院中の20代から60代の男女を対象に実施した「コロナ禍での歯に関する実態調査」では、若い世代ほど歯科医院への通院に不安を抱いており、通院頻度は20代、30代を中心に減少していることがわかりました。

歯と口を清潔にしてウイルスから身を守ろう!

コロナ禍が歯と口の健康に影響を及ぼしていることは、新型コロナウイルスの感染および重症化予防の側面からも見逃すことはできません。インフルエンザウイルスでは、口腔内を清潔に保つことが感染予防に有効であることが明らかになっています。これは、口腔内の細菌が出すタンパク質分解酵素がウイルスの体内への侵入を助けるためで、歯周病のある人では特に注意が必要であると言われています。新型コロナウイルスについてはインフルエンザウイルスほどその関係性が解明されていませんが、日本歯科医師会は、新型コロナウイルスが口腔内で増殖する可能性や、口腔が新型コロナウイルスの感染の入り口になることから、口腔ケアが大切であると指摘しています。さらに歯磨き剤や洗口剤の成分が新型コロナウイルスの体内への進入を防ぐ可能性が認められたため、歯磨き剤を用いた歯磨きによって新型コロナウイルスの感染予防が期待できるとしています。

また、重症化予防においては、歯周病の管理が重要です。歯周病は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクである心臓病や糖尿病を引き起こしたり悪化させたりすることがわかっています。参考:日本臨床歯周病学会「歯周病が全身に及ぼす影響」

したがって、歯周病が進行すると基礎疾患が悪化し、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化する可能性が高まります。歯周病やその疑いのある人は、ご自身でしっかり口腔ケアを実施するとともに、主治医に相談してコロナ禍でも定期的な歯科受診をしましょう。なお、喫煙と歯周病には明らかな因果関係があるため、タバコを吸っている人は禁煙することもお勧めします。

以上のように、マスク着用・自粛生活で増える虫歯や歯周病対策のみならず、新型コロナウイルスの感染および重症化予防の観点からも口腔ケアは欠かせません。特に、高齢者は新型コロナウイルスが重症化しやすいことが明らかになっていることから、寝たきりや認知症の高齢者の口腔内清掃をしっかり行うことも今まで以上に重要です。日本口腔保健協会では舌ケアを含む口腔ケアを紹介しています。

マスク生活が引き起こすピンチ、“オーラルフレイル”とは?

ところで、最近マスク生活で老け顔になったなぁと感じている人も多いのではないでしょうか。日常的にマスクをしている状態では、表情が乏しくなったり、発話が減ったりすることで、気づかないうちに表情筋が衰えてしまう可能性があります。それにより、老け顔になること以上に怖いのがオーラルフレイルです。

オーラルフレイルとは「噛んだり、飲み込んだり、話したりするための口腔機能が衰える」ことで、全身のフレイル(虚弱)が始まる前段階であるとされています。65歳以上の高齢者約5,000名を対象にした東京大学の「柏スタディ」によると、オーラルフレイルの兆候のある人とない人を追跡調査したところ、兆候のある人は要介護認定率が2.4倍、総死亡リスクが2.1倍でした。日本歯科医師会は、オーラルフレイルを重視し、8020運動にその概念を加えて、健康寿命をサポートしていくとしています。 *80歳で20本以上の自分の歯を保つことを目指す国民運動 参考:日本歯科医師会発行.HAPPY Smile Vol.27.2019 

オーラルフレイルにより口呼吸が増えるとウイルスに感染しやすくなるほか、歯周病が悪化し、悪循環を招くことも。また、誤嚥生肺炎のリスクも増すなど、新型コロナウイルスの感染症・重症化を予防する上でもオーラルフレイル対策は重要です。滑舌が悪くなった、わずかにむせる、食べこぼしてしまう、口が乾燥しやすいと言った症状はオーラルフレイルのサインです。心当たりがある人もそうでない人も、日本歯科医師会の推奨する口腔体操を行って予防に努めましょう。

マスクのいらなくなる日を綺麗な歯といきいきとした表情で迎えられることを楽しみに、今日からさっそく始めてみませんか。(文:池上洋未)