Withコロナ時代の公衆衛生キーワード:第1回「オンライン診療」

感染拡大が止まらないコロナ禍において、医療の“新しい姿”として注目が高まっているのが「オンライン診療」です。

本来、オンライン診療を実施する医師は、厚生労働省が定める研修を受講する必要があります。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染状況を鑑み、4月から時限的・特例的に、研修を受講していない医師でも、オンライン診療や、情報通信機器を用いた診療を実施してよいことになりました。従来は、限られた慢性疾患の患者のみが可能だった初診についても、疾患の制限なく、オンラインで行えるようになりました。

政府は7月17日、「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」と成長戦略実行計画を閣議決定し、新しい日常の実現に向け、デジタル化の推進を強化する方針を明らかにしました。ここでも、「オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築する」ことを明確に打ち出しています。

通院時間が不要で便利な一方、症状見落としなどのデメリットも

オンライン診療のメリットは、現在のようなコロナ禍で患者が病院に出向きにくい環境や悪天候などに関わらず、受診ができること。通院時間、院内での待ち時間も不要ですので、多忙な子育て世代・働き盛り世代、通院が体の負担になる高齢者など、幅広い世代にとって便利な受診方法であるほか、精神疾患など来院へのハードルが高い診療科を受診する際にも役立ちそうです。

一方で、デメリットもあります。患者にとっては、必要な通信環境を整えたり、情報機器を正しく操作する必要があるため、世代によってはITリテラシーが障壁になる場合もあるかもしれません。また、医師にとっては、触診や検査ができず、画面を通じた限定的な情報しか得られないため、対面診療に比べ、病状の見落としや誤診の可能性があり、医療の質を担保することの難しさが指摘されています。

オンライン診療の初診の診療報酬は2140円(3割負担の場合、642円)。対面での初診料2880円(3割負担の場合、864円)に比べて安くなりますが、医療機関によっては、オンライン診療を維持するためのシステム料などを請求する場合があります。そのため、自治体が市民にオンライン診療について案内する際には、医療機関ごとに料金や方法について確認の上、受診してもらう必要があるでしょう。

なお、オンライン診療で薬を処方された場合は、服薬指導もオンラインで受けられるようになっています。これまでは国家戦略特区内でのみ、オンライン服薬指導の実証実験が行われてきましたが、9月から全国的に解禁される予定でした。これがオンライン診療と同様、4月から時限的・特例的に解禁されたのです(麻薬、向精神薬の処方を除く)。現在、オンライン服薬指導の際に、薬の配送を希望すれば、最寄りの薬局から自宅に薬を届けてもらうことができます。 

体験者の過半数は「できるだけオンライン診療を受けたい」

IT機器への抵抗感さえなければ便利に感じられる仕組みですが、とはいえ、現在、一体どのぐらいの医療機関がオンライン診療に対応しているのでしょうか。厚労省の報告では、4月当初は1万件ほどだった対応施設が1カ月半で1万5000件に増加したという報道があります(https://www.tokyo-np.co.jp/article/37267)。自治体ごとの医療機関リストは現在、厚労省のホームページ上で確認できます(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html)。さらに厚労省は、オンライン診療を検討している市民向けに、受診のステップを解説した資料(https://www.mhlw.go.jp/content/000621727.pdf)も公開しています。

ユーザーにオンライン診療についての意識を聞いた『平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査』(厚生労働省)によると、オンライン診療の体験者の55.2%は「できるだけオンライン診療を受けたい」と回答し、過半数がその良さを評価しています。一方、オンライン診療未経験者の52.2%が「できるだけ対面診療を受けたい」と回答しています。

Withコロナ時代に、症状の重症化につながりかねない“受診控え”を減らす一つの解決策でもあるオンライン診療。まずは、メリット、デメリットを丁寧に啓発した上で、初回のハードルをいかに下げていけるか─。オンライン診療を根付かせていくためには、こうしたヘルスコミュニケーションが必要でしょう。(文:新村 直子)