Withコロナ時代の健康づくり:第1回「禁煙」

世界禁煙デー

5月31日はWHOが定める世界禁煙デーです。日本では5月31日から6月6日までの1週間を禁煙週間とし、例年、厚生労働省をはじめ各自治体で啓発イベント等が行われます。今回は、新型コロナウイルス感染症と喫煙の関連、コロナ禍での禁煙についてお伝えします。

コロナ禍でたばこの売り上げが増加?!

たばこによる健康被害は広く知られるようになり、喫煙者は減少傾向が続いています。2019年の日本の成人喫煙率は男性27.1%、女性7.6%で、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組み条約」を批准した2004年から15年間で男性は16.2%、女性は4.4%減少しました(厚生労働省国民健康・栄養調査)。さらに、受動喫煙防止対策も進み、2020年4月1日には改正健康増進法の全面施行により、多くの場所で原則屋内禁煙となりました。

ところが、新型コロナウイルス感染症の流行後、たばこの売り上げが増加に転じていることをご存知でしょうか。日経クロスドレンドによれば、2020年12月の日経POS情報で「たばこ・喫煙関連用品」の販売金額は前年同月に比べ12.2%増加していました。この傾向は米国や欧州でも同様にみられ、在宅時間の増加やストレスが影響していると考えられています。

筑波大学が2020年8月から9月に行ったアンケート調査によると、8割の人が新型コロナウイルスにストレスを感じており、うつ・不安、PTSD症状とも、従来の災害と同程度、またはそれ以上に高かったこともわかっています。災害が依存症悪化のリスクになることはよく知られており、震災被害後の仮設住宅で喫煙量が増加した事例も報告されていますが、長引くコロナの流行は、喫煙者はもちろん、一度禁煙に成功した人にとっても辛い日々となっていることが窺われます。

コロナ禍の喫煙リスク

たばこを吸っている人は各種がん、脳卒中、虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)2型糖尿病、歯周病、早産等になりやすく、日本での喫煙による死亡数は年間約12~13万人にも上ります。また、喫煙者のまわりにいる人の受動喫煙と肺がん、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)等の因果関係も明らかで、年間死亡数は約1万5千人です(たばこ白書)。

これらの健康影響に加え、コロナ禍においては、喫煙による新型コロナウイルス感染症への影響も見逃せません。コロナ禍の喫煙リスクは主に2つ、①感染しやすくなること、②感染した場合重症化することが挙げられます。

①喫煙により新型コロナウイルスに感染しやすくなる

新型コロナウイルスに感染した患者の現在喫煙率が低いという報告が複数ありますが、これらについてはデータ収集上の問題等が指摘されています。たとえば、新型コロナウイルス感染後にたばこをやめた患者を非喫煙者として扱ってしまったり、喫煙歴不明の患者の扱いが適切でなかったりといった可能性があります。

一方、新型コロナウイルスは、自身が持つスパイクタンパク質を人の肺や心臓等に存在するACE2受容体に結合させることで感染します。ACE2受容体は、ニコチンにより増加するため、喫煙や受動喫煙が体内に侵入した新型コロナウイルスの結合チャンスを増やしてしまうことで感染リスクが増すのではないかと考えられています。(参考:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とたばこ.日本禁煙学会雑誌

また、忘れてはならないのが喫煙所での感染リスクです。感染リスクが高まる「5つの場面」のひとつ「居場所の切り替わり」には休憩室、喫煙所、更衣室での感染が疑われる事例があると記されています。 “居場所が切り替わると、気の緩みや環境の変化により、感染リスクが高まることがある”とのことですが、特に喫煙所は3密条件を満たし、狭い空間でマスクを外して息を深く吸い込んだり、口元に触れたりと感染リスクが高い場所であるといえるでしょう。

②喫煙経験のある人は重症化しやすい

新型コロナウイルス感染症とタバコについて日本禁煙学会がまとめた資料によると、喫煙と重症化や死亡と関連するリスク因子に関するシステマティックレビューとメタアナリシスでは、喫煙歴がある人は、喫煙歴がない人に比べて1.5〜2倍重症化しやすいという結果が報告されています。(*複数の研究データを統合して分析したもので、単一の研究よりも信頼性が高いと考えられています。)

また、基礎疾患のある人は新型コロナウイルスに感染すると重症化すると言われていますが、基礎疾患とされる糖尿病、心臓病、COPD、慢性腎臓病、がん等の疾患は、喫煙によりかかりやすくなります。今後しばらくは流行を繰り返すと思われる新型コロナウイルスに万一感染してしまった場合に備えて、重症化因子である疾患を予防するうえでも禁煙は重要です。外出自粛で運動量の低下が問題になるなど、生活習慣病のリスクが高まる中で、喫煙によりさらにリスクを高めることの無いよう、今すぐ禁煙したいところです。

禁煙に成功するには?保険適用の治療用アプリも登場

たばこをなかなかやめられないのは、ニコチンがヘロイン、コカイン、アルコールなど一般的な依存性物質と同様の特徴や強度を有する依存物質だからです。ニコチン依存症の場合、我慢や努力だけで断ち切るのはなかなか難しいでしょう。そこで、禁煙を成功させるためには禁煙補助剤や自治体(保健所、保健センター等)・職場・薬局での禁煙支援、禁煙外来の利用をお勧めします。禁煙外来の場合、一定の条件を満たせば、保険適用で治療を受けることもできます。

保険利用可能な医療機関(日本禁煙学会作成)

保険適用の条件(e-ヘルスネット)

また、禁煙外来治療費助成を行っている自治体や、オンライン診療を行っている医療機関もあるためコロナ禍で受診する負担感が軽減されるかもしれません。さらに、最近では禁煙アプリも多数登場しており、昨年12月にはCureApp社のニコチン依存症治療アプリが、治療用アプリとして日本で初めて保険適用になりました。新型コロナウイルスの流行というストレス下において、個人の努力だけでニコチン依存に打ち勝つのは難しいもの。在宅でも利用できる禁煙サポートをうまく活用して、新型コロナウイルス感染および重症化のリスクを下げられると良いですね。

ちなみに再喫煙のきっかけ上位には、たばこ仲間の誘惑や飲み会の席が。外出機会や飲み会の減少している今は、手元のたばこさえ片付けてしまえば誘惑が少なく、禁煙のチャンスでもあるかもしれません。禁煙補助剤、禁煙支援に加え、あらかじめストレス解消法も用意して禁煙をスタートすることをお勧めします。 

ご自身と大切な人を新型コロナウイルスから守るためにも、この機会に禁煙にチャレンジしてみませんか!(文:池上洋未)