Withコロナ時代の公衆衛生キーワード:第3回「濃厚接触者<前編>」

濃厚接触者ってどんな人?もし、なってしまったら?

新型コロナウイルス関連のニュースでしばしば耳にするようになった「濃厚接触者」という言葉。濃厚接触者になると会社や学校を休まなければならなかったり、家庭内での感染予防に労力を要したりするため、できればなるのは避けたいと思われる方がほとんどでしょう。今回は、濃厚接触者の定義、濃厚接触者になってしまった場合の対応についてお伝えします。

「1m以内」「マスクなし」「15分以上」実際は?

濃厚接触者について、国立感染症研究所感染症疫学センターは次のように定義しています。
患者(無症状病原体保有者を含む、以下同様)の感染可能期間(症状の出る2日前から入院等まで)に接触した者のうち、

  • 患者と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
  • 手で触れることのできる距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、患者と15分以上の接触があった者

必要な感染予防策とは主に、飛沫感染予防のためのマスク着用、接触感染予防のための手指衛生ですが、“1m以内で15分以上”については、マスクさえ着用していれば大丈夫なのか、2m離れていれば15分以上でも大丈夫なのか等、具体的にどんな人が該当するのかイメージできないという方もいらっしゃるかもしれません。

それについて厚生労働省では、新型コロナウイルスに関するQ&Aで 、「感染者との関係性、接触の程度などについて、保健所が調査を行い、個別に判断する」「マスクの有無、会話や歌唱など発声を伴う行動や対面での接触の有無など、3密の状況などにより、感染の可能性は大きく異なる」と説明しています。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-3

 つまり、濃厚接触者の定義と合わせて、

  • 患者自身がウイルスを拡散するような行動をとっていたか
  • 接触者が患者との位置関係や共に過ごした時間、環境などから、どの程度ウイルスに曝されやすい状況にあったか

といった個別の状況を詳しく把握したうえで、濃厚接触者であるかどうかが判断されるのです。

濃厚接触の具体的なイメージを掴むには、実際にどんな状況で感染が起きているのか記された事例が参考になります。厚生労働省のまとめた「職場における集団感染事例」によると、感染が起きる状況には以下のようないくつかの共通点が見られました。

  • 不適切なマスクの着用
  • 座席の配置や換気等、不十分な環境対策
  • 休憩室や更衣室での密集
  • 物品・機器の共有 等

https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657477.pdf 令和2年8月7日報道発表資料)

これらは職場だけでなく、サークルや習い事、外食その他の日常的に人と接する場面にも該当します。この事例集で、集団感染が発生した原因として考えられるものとして挙げている項目に当てはまった場合、濃厚接触者と判断されるでしょうし、逆に言えば、これらの項目を日ごろから意識した感染予防策を徹底していれば、身近に患者がいた場合でも濃厚接触者となることを避けることが出来る可能性があります。

濃厚接触者になってしまったら

濃厚接触者には、速やかに陽性者を発見する観点からPCR検査を実施し、陰性だった場合にも14日間の健康観察と自宅待機が求められます。陰性でも自宅待機が必要な理由は何でしょう。それは、PCR検査結果が陰性でも感染している可能性がゼロではないからです。新型コロナのウイルス量は、採取する場所(鼻、喉、唾液)や時期によって変化するため、感染していても採取した検体に含まれるウイルス量が少ない場合、PCR検査結果は陰性になってしまいます(https://jeaweb.jp/covid/qa/index.html#q1)。そのため、陰性でも万が一感染している場合、他者に感染させる可能性のある期間として、患者と最後に接触した日から14日間は自宅待機が必要になるのです。

濃厚接触と判断された人に同居者がいる場合は、もしも感染していた場合、自宅待機中にうつしてしまうのではないかと心配に思われるでしょう。同居者は濃厚接触者の定義の一つであるとおり、家庭内に感染が疑われる人がいる場合には感染予防のための注意が必要です。具体的な対策のポイントは厚労省のリーフレットが参考になります。(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf

現在、濃厚接触者の感染経路別割合は家庭内感染が最も高くなっています。東京都では、患者の発症日で見た感染状況がピークになった7月下旬に家庭内感染が11.8%で最多となり、8月中旬以降30〜40%台と他の感染経路に比べて高い割合で推移しています。物の共有頻度が高く、一緒に過ごす時間の長い同居者への感染を防止するのはなかなか難しいことから、まずは家庭内にウイルスを持ち込まないことが大切です。次回は濃厚接触者にならないために必要な感染予防策についてお伝えします。(文:池上洋未)